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東京地方裁判所 昭和42年(合わ)200号 判決 1967年7月25日

被告人 甲

主文

1  被告人を懲役四年以上七年以下に処する。

2  未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。

3  押収してあるドライバー一丁(昭和四二年押八九四号の一)を没収する。

理由

(認定事実)

被告人は、

(一)  昭和四一年六月二七日、東京都江東区深川門前仲町二丁目五番地吉田久男方二階の加畑一郎の居室で、同人所有の普通預金通帳一冊(預金残高三万五、七五四円)および印鑑、ボストンバツグ各一個(時価合計約四、〇〇〇円)、神谷源一所有のライター一個(時価約六〇〇円)を窃取し、

(二)  右窃取した預金通帳と印鑑を利用して銀行から現金を騙取しようと考え、前同日、同町二丁目一番地株式会社三和銀行深川支店で、行使の目的で、かつてに、同店備付けの普通預金請求書用紙一枚の金額欄に「¥35000」、氏名欄に「加畑一郎」とそれぞれ横書きし、その氏名の右に前記窃取した「加畑」と彫つた丸型印を押して、同人名義の金額三万五、〇〇〇円の普通預金請求書一通を偽造したうえ、同店係員に対し、右偽造した預金請求書が真正に成立したものであつて右加畑が預金の払戻しを請求しているもののように装つて前記窃取した預金通帳とともに、右請求書を提出して行使し、同店係員をそのように誤信させ、よつて同店係員から預金払戻し名下に現金三万五、〇〇〇円の交付を受けてこれを騙取し、

(三)  昭和四二年四月二六日午前七時ごろ、同都渋谷区神宮前一丁目一四番一四号原宿コーポ前路上に駐車中の長島真治の自動車内から、同人所有のトランジスターラジオ一台(時価約一、五〇〇円)を窃取し、

(四)  前同日時ごろ、同区神宮前一丁目一五番一一号石川方前路上に駐車中の中田勝己の自動車内から同人所有のドライバー一丁(時価約一〇〇円)を窃取し、

(五)  前同日時ごろ、同区神宮前一丁目一五番一四号原宿ハイツ前路上に駐車中の北見令子の自動車内から、右手用および左手用手袋各一個(時価合計約一、〇〇〇円)を窃取し、

(六)  金銭に窮して強盗をしようと決意し、前同日午後零時五〇分ごろ、〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号A子方居室で、いきなり同女の脇腹に前記窃取した長さ約二二センチメートルのドライバー一丁(主文3の物件)を突きつけながら、同女に対し「静かにしろ」「金はどこにある。金をくれ」などと言つて脅迫し、その反抗を抑圧して、先ず同女のハンドバツグ中の現金六、〇〇〇円を強取し、次いで同女をほとんど裸体にして後手に縛りあげたところ、急に劣情を催し、同女を全裸にしたうえ強いて姦淫し、さらに台所にあつた現全約四、五〇〇円を強取したものである。

(証拠)<省略>

(法令の適用)

(一)、(三)ないし(五)の各事実は、いずれも刑法二三五条にあたる。

(二)の事実のうち、私文書偽造の点は同法一五九条一項に、その行使の点は同法一六一条一項、一五九条一項に、詐欺の点は同法二四六条一項にあたる。右の私文書偽造とその行使と詐欺との間には順次手段結果の関係があるので、同法五四条一項後段、一〇条により、(二)の事実を一罪として最も重い詐欺罪の刑(ただし、短期は偽造私文書行使罪の刑のそれによる)に従う。

(六)の事実は同法二四一条前段にあたる(有期懲役刑を選択)。

以上の各罪は同法四五条前段により併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条、一四条により最も重い(六)の罪の刑に併合罪の加重をし、なお犯情を考慮して、同法六六条、七一条、六八条三号により酌量減軽した刑期の範囲内で、少年法五二条一項により、被告人に対し不定期刑を言い渡す。

刑法二一条(主文2)。同法一九条一項二号、二項(主文3。この物件については所有権が放棄されている)。

刑訴一八一条一項但書(訴訟費用は負担させない)。

なお、本件に関する東京家庭裁判所の検察官送致決定書によると、(二)の事実にあたる犯罪事実としては、被告人が三和銀行深川支店係員に対し加畑一郎所有の普通預金通帳と印鑑とを提出し、自分が加畑一郎であるように装つて係員を誤信させ、預金払戻し名下に現金三万五、〇〇〇円の交付を受けてこれを騙取したという趣旨の詐欺の事実が指示されているだけで、預金請求書の偽造とその行使の事実は示されていないけれども、検察官は、いわゆる犯罪事実の同一性ないし単一性の認められる範囲内にかぎり、家庭裁判所の送致決定書に示された事実と異なつた事実について公訴を提起し、またはその送致決定書に示された事実に他の事実を付加して公訴を提起することが許されるものと解すべきであるから、右詐欺の事実と科刑上の一罪の関係にある私文書偽造およびその行使の事実をも訴因として付加した本件の公訴提起は、不適法なものではない。

(量刑について)

被告人は、すでに再三警察や家庭裁判所の調べを受けて更生の機会を与えられていながら、まじめに働く意欲を欠き、本件各犯行を行なつたものであり、特に強盗強姦の事実は、白昼に、マンシヨンで一人暮しの女性をねらつた計画的なもので、その方法も極めて悪質であり、被告人の責任はなんとしても重いといわなければならない。

しかし他方、被告人は、強盗強姦の犯行後、被害者に対して自分の預金通帳を渡して金の返済を約するような純真さも残している少年であつて、真剣に努力さえすれば更生することができる見込みもないわけではないし、現在では本件犯行を深く反省していると認められるなどの事情がある。

そこで、その他諸般の事情をも考慮したうえ、主文の刑を量定した。

(裁判官 戸田弘 羽石大 堀籠幸男)

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